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水戸地方裁判所 昭和49年(ワ)45号 判決 1978年7月07日

原告 有限会社中村工務店

右代表者代表取締役 玉川皓三

右訴訟代理人弁護士 星野恒司

被告 市毛常

右訴訟代理人弁護士 倉本英雄

主文

被告は原告に対し、金四三三万三九三〇円及びこれに対する昭和四七年二月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、第二項と同旨

2  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、訴外市毛商事有限会社(以下「市毛商事」という。)に対し、川砂利及び川砂を昭和四六年一一月には代金二〇〇万八七一〇円、弁済期同年一二月末日と定めて、同年一二月には代金二一〇万二九二〇円、弁済期昭和四七年一月末日と定めてそれぞれ売渡した。

2  市毛商事の従業員訴外佐藤浩(以下「佐藤」という。)は本来ダンプカーの積載量(容量)は一定しており、原告においては砂利等の売渡分量をダンプカーの荷台に積み込まれた砂利等の高さにより計量していたことから、自己の使用していた登録番号茨一一さ一六一六号のダンプカーの荷台の底を下げ、一・〇三四立方メートル余分に積めるように改造し、昭和四六年六月二一日から同年一一月二八日までの間、原告との取引に右ダンプカーを利用し、延べ合計一七一台について一台あたり一・〇三四立方メートル合計金二二万二三〇〇円(端数切捨)相当の川砂利、川砂を原告から騙し取ったが、右騙取行為は市毛商事の事業の執行につきその従業員がなした不法行為であるから、右会社は原告の損害を賠償する義務がある。

3  原告は昭和四〇年頃から被告個人に川砂利、川砂を売渡していたところ、被告は、昭和四三年二月ころ出資金五〇万円で市毛商事を設立し、その持分の殆んどを有するに至ったが、原告は被告から右会社が設立された旨の通知を受けたこともなく、当時はその事情を全く知らなかった。その後被告の使用する車輛などに右会社名が記載されていたことから、原告としても次第に右会社の存在を知るに至ったが、右会社の営業の実態は何ら従前と異なったところがなく、被告も一貫して従前どおり経営者として振舞っていたので、原告は、被告が単に名目上会社名を利用しているにすぎず、被告個人の営業であることに変りはないと考えて取引を継続していた。ところが、被告は、昭和四七年初め頃から、市毛商事は倒産しており、被告個人は取引の当事者ではないとして、第1項の代金債務及び第2項の損害賠償債務の支払を拒否している。

市毛商事は、被告が国鉄職員であったため名目上その妻訴外市毛きよい(以下「きよい」という。)を代表取締役としたが、その営業の中心は被告であり、被告個人が市毛商事のために担保物件を提供して営業資金を調達し、また、その営業活動に必要な事務所、電話を貸与して自己の信用を右会社に利用せしめ、さらに、被告が会社の行動を規定し、会社に対して自己の意思を強制し得べき地位にあるなど被告が個人で営業していたときの実態と変らない。それにもかかわらず、被告が右のように右各債務の支払を免がれようとすることは会社組織の濫用があるというべく、会社の存在は、その背後にある被告なくして考えられないので、法人格は否認されなければならず、被告個人に右各債務の支払義務がある。

4  仮に法人格否認の法理が適用されないとしても、被告は昭和四三年二月から市毛商事の代表取締役として右会社の実質的経営の衝に当っていたものであるが、市毛商事は資本金僅か金五〇万円であるところ、昭和四五年頃から次第に赤字を累積し、昭和四六年秋頃には不動産、動産、債権等の会社財産が全くないのに、金融機関に対してだけでも金四〇〇万円か金五〇〇万円、カーディーラー及び原告らに対しては合計金一〇〇〇万円近い借財があるうえ、被告自身まもなく市毛商事としての営業を廃止することを予定していたのであるから、第1項のとおり原告から川砂利、川砂を買受けても、会社財産によっては到底右代金を支払うことができず、原告に右代金相当の損害を与えるべきことを当然予見できた筈である。しかるに、被告は市毛商事の代表者として第1項の売買契約を締結し、市毛商事は右売買の直後である昭和四七年初め頃倒産し、原告は右売掛代金の取立が不能となり、右代金相当の損害を蒙った。

また、第2項の騙取行為については、被告の売渡先が正確な重量検収を行っていたのであるから、当然早くからこれに気付いていた筈であり、相当の注意を払えば、原告の損害発生を防止できたのである。しかるに、被告は訴外佐藤浩が改造ダンプカーを使用しているのを黙認していた。

従って、被告は、右会社の職務を行うにつき悪意又は重大な過失があるというべきであるから、原告に対し有限会社法三〇条ノ三又は民法七〇九条、七一九条により右各損害を賠償する義務がある。

5  よって原告は、被告に対し金四三三万三九三〇円及びこれに対する弁済期又は不法行為の後である昭和四七年二月一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実のうち、市毛商事が原告から昭和四六年一一月及び一二月に川砂利、川砂を合計代金四一一万一六三〇円で買受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  請求原因第2項の事実のうち、原告主張の期間、市毛商事の従業員佐藤が市毛商事と原告との取引に際して改造ダンプカーを使用していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  請求原因第3項の事実のうち、市毛商事が昭和四三年二月出資金五〇万円で設立されたこと、被告が国鉄職員であったこと、被告の妻きよいが市毛商事の代表取締役であったこと、被告が市毛商事に事務所、電話を貸与していたこと、市毛商事が第1項の代金債務及び原告主張の損害賠償債務の支払を拒否していることは認めるが、その余の事実は否認する。

市毛商事なる屋号で昭和四〇年頃から原告と取引していたのは被告の弟訴外市毛直三(以下「直三」という。)である。被告は個人の資格で原告と取引したことはない。直三は被告の自宅を事務所として使用していたが、昭和四二年暮隣に家を建てそこに移って営業を続けていた。昭和四三年二月七日被告が金三〇万円、被告の妻きよいが金一〇万円、きよいの兄訴外田中春吉が金一〇万円を出資して、砂利、砂、砕石の採取、販売を目的とする市毛商事が設立されたが、きよいが代表取締役に、田中が取締役に就任し、会社の事務はきよいが担当したのであって、被告は役員でもなく、営業を担当したこともなく、単に多少の相談相手になったり、手伝いをしたのみである。被告が市毛商事の代表取締役に就任したのは昭和四七年一月三〇日である。

4  請求原因第4項の事実のうち、市毛商事が資本金五〇万円であることは認めるが、その余の事実は否認する。

三  抗弁

仮に、被告に市毛商事の原告に対する債務を弁済する義務があるとしても、原告は、川から砂利、砂を採取し、これを約一キロメートル離れた製練選別機まで運び、そこで精選した砂利、砂を販売するものであるところ、市毛商事は昭和四三年から同四六年一二月までの間川から右選別機まで砂利、砂を運搬した。その相当運賃は、一〇トン車一台一回分金一〇〇〇円、八トン車一台一回分金五〇〇円であり、その月毎の合計は別表記載のとおりであるから、その合計は金五八七万円を超えるものである。右運搬は市毛商事の営業の範囲内の行為であるから、市毛商事は原告に対し商法五一二条により金五八七万円の債権を取得した。

市毛商事は昭和四六年一二月二七日原告に対し、右運賃債権をもって原告の市毛商事に対する本件砂利、砂の売買代金債権をその対当額において相殺する旨の内容証明郵便で意思表示し、右郵便はその頃原告に到達した。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち相殺の意思表示があったことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  原告が市毛商事に対し、昭和四六年一一月及び一二月に川砂利、川砂を合計代金四一一万一六三〇円で売渡したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右一一月が代金二〇〇万八七一〇円、右一二月が代金二一〇万二九二〇円であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

しかして、《証拠省略》によれば、市毛商事は、原告から買入れた砂利、砂の代金について、従来から毎月末日締めで翌月末日に約半分を現金(小切手)、その余を支払期日三か月ないし四か月後の約束手形で支払っていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠は存しない。

右事実によれば、市毛商事が昭和四六年一一月に原告から買入れた川砂利等の前記代金債務については同年一二月末日に、同年一二月に買入れた川砂利等の前記代金債務については昭和四七年一月末日にそれぞれその弁済期が到来したものと認められる。

二  市毛商事の従業員佐藤が昭和四六年六月二一日から同年一一月二八日までの間原告と市毛商事との取引に改造ダンプカーを使用していたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、佐藤は、その所有にかかる右改造ダンプカー付で市毛商事に雇われ、前記期間その車を使用して原告から買入れた砂利、砂の運搬に従事していたこと、原告においては、砂利、砂の売渡分量を、荷台に積み込まれた砂利等の高さを物差で測り、これに荷台の平面積を乗じて計量するという方法をとっていたこと、右改造ダンプカーは普通のダンプカーと比べて、荷台の底が約一〇センチメートルほど下がっており、右のような原告の計量方法をとった場合一台につき約一〇三四立方メートル余分に積み込むことができること、原告の従業員らは、佐藤の使用していた右ダンプカーが改造されたものであることに気付かなかったが、右ダンプカーが荷台を上げた際初めて荷台に右のような改造がなされていることを発見し、調査したところ、同人が原告との取引に関して、延べ一七一台分についてそれぞれ、右容量だけ砂利、砂を騙し取っており、その代金相当額は端数切捨で金二二万二三〇〇円になることが判明したこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、市毛商事の従業員佐藤は市毛商事の事業の執行につき原告から砂利、砂を騙し取り、原告に対し金二二万二三〇〇円の損害を与えたものというべきであるから、市毛商事は、原告に対し右損害を賠償する義務があるといわなければならない。

三  そこで、市毛商事の法人格否認を前提とする被告の責任について検討する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  砂利、砂の採取及び販売を主たる業務とする原告は、昭和四〇年頃から被告個人と取引をするようになったが、当時被告は自宅を事務所とし、「市毛商事」という名を使い、被告の弟である訴外市毛直三がダンプカーで砂利、砂を運搬していた。その後同人は他に家を建てて独立し、昭和四三年二月には出資金五〇万円で砂利、砂の運送及び販売を目的とする有限会社である市毛商事が設立され(昭和四三年二月出資金五〇万円で市毛商事が設立されたことは当事者間に争いがない。)、原、被告間の取引は原告と市毛商事間の取引となったが、原告は、被告から有限会社組織の市毛商事が設立された旨の通知を受けたこともなく、従前と同じく被告個人の営業と考えて取引を継続していた。

2  そのうち、市毛商事の使用していたトラックに「市毛商事有限会社」と記載されていたこと、また、砂利、砂の代金支払のため、市毛商事が原告に振出した小切手及び約束手形の振出人欄に「市毛商事有限会社代表取締役市毛きよい」と記載されていたことから、原告としても、遅くとも昭和四四年一二月頃には市毛商事の存在を知るに至ったが、代表取締役とされているきよいは単に電話の取次をする程度で、殆んど原告との取引に関与しないのに対し、被告は週に一回程度は乗用車で原告の砂利、砂の採取現場にまで臨んで市毛商事の従業員を指揮して配車を行い、原告と砂利、砂の値段の交渉をするなどし、また、右現場において市毛商事の従業員から社長と呼ばれるなど被告が経営者として振舞っていたばかりでなく、市毛商事の事務所は被告の自宅にあり、市毛商事の電話は被告個人の電話と同じであったことなどから、原告は、被告が税金対策か何らかの目的をもって、単に名目上会社名を利用しているにすぎず、従来どおり被告個人の営業であることに変りはないと考えて昭和四六年一二月まで取引を継続した。

3  ところで、市毛商事の社員は被告、きよい及びきよいの兄訴外田中春吉の三名であり、きよいは代表取締役である(この事実は当事者間に争いがない。)が、これは当時被告が国鉄職員であったため公には会社役員に就任できなかったことによるもので、前述のとおり、名目上の代表取締役にすぎず、田中春吉も取締役となってはいるが、市毛商事の経営に直接参加したことはなく、これも名目上のものであった。一方、被告は、前述のとおり営業者として振舞っていたのであって、市毛商事の事実上の代表者であったばかりでなく、自己名義の土地、建物を担保として提供して市毛商事の営業資金を調達し、また個人として市毛商事に対して金員を貸与し、さらに、市毛商事に事務所、電話を貸与していた(この事実は当事者間に争いがない。)。

4  市毛商事は、昭和四五年頃から次第に赤字を累積し、昭和四六年暮頃には、資本金僅か金五〇万円であり、会社財産としてみるべきものがないのに、借入金が約一二〇〇万円に達するに至ったが、被告は、赤字が累積するようになった頃から、市毛商事を廃業して一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー業)をすることを考え、昭和四五年一二月一八日茨城県陸運事務所に対し、タクシー業開業の申請書を提出するとともに、昭和四六年三月には国鉄に退職の意思を表示し、同年一二月三一日その発令を受けるや、昭和四七年一月三〇日には市毛商事を廃業する意図のもとにその代表取締役に就任した。

5  市毛商事は砂利、砂の仕入れの九割以上を原告に頼っており、その一か月の取引量が代金にして金二〇〇万円を超えることは殆んどなく、昭和四六年六月から一〇月までの取引量も金一一〇万円から一五〇万円程度であったところ、同年一一月及び一二月(一二月九日までである)の取引量は連続して金二〇〇万円を超過したが、市毛商事は右一二月九日をもって一方的に原告との取引を停止した市毛商事は同年一〇月分までについては前述のとおり毎月末日締めで翌月末日に支払っていたが、同年一一月分については、その支払期日の直前の同年一二月二七日にこれまで原告に対し請求したことのない後述のいわゆる切込小揚代金債権金五八七万円が原告に対し存在するとして、内容証明郵便で右代金債権を請求し、右代金債権をもって同年一一月及び一二月の原告に対する砂利、砂の代金債権と対当額で相殺する旨意思表示をするとともに、砂利、砂の仕入れの九割以上を頼っていた原告との取引を停止し、使用していた車輛や従業員である運転手の整理をしたうえ、昭和四七年三月頃事実上の廃業をするに至った。そして、被告は、同年六月一〇日茨城県陸運事務所からタクシー業の免許を得たので、同年七月四日出資金六〇〇万円で石川タクシー有限会社を設立し、その代表取締役に就任した。

6  一方、原告は、同年二月水戸地方裁判所に対し市毛商事を債務者として、本訴請求債権を被保全債権とする債権仮差押の申請をし、仮差押命令を得たが、市毛商事の第三債務者らに対する債権が存在しなかったので、保全の目的を達することができなかった。原告は、さらに同年五月右裁判所に対し市毛商事を債務者とする破産宣告の申立をするとともに、破産財団保全処分の申立をしたところ、右裁判所は、同年九月市毛商事に対し破産宣告をすると同時に破産財団をもって破産手続の費用を償うに足りないとして破産廃止の宣告をした。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定事実によると、原告と被告個人との間には従前から取引があり、被告側が有限会社組織の市毛商事となった後も、単に使用していた車輛及び代金支払のため振出される手形、小切手に会社名が記載された点が異なるだけで、会社の代表者とされた被告の妻きよいは殆んど営業に関与せず、市毛商事は被告個人によって運営され、また市毛商事の営業に必要な事務所、電話、営業資金等は被告個人の資産に依存するなど従前の被告個人の営業と殆んど変りがなかったというのであるから、市毛商事は実質的には被告の個人企業であって、法人格は全くの形骸にすぎず、事実上は市毛商事即被告であると認めるのが相当である。

また、右認定事実によれば、被告は、赤字の累積により市毛商事の事業の継続が困難となり、間もなく市毛商事を廃業して新たにタクシー業を開業しようとしていた昭和四六年一一月、一二月に連続して通常よりも大口の取引をし、特に最後の取引となった右一二月は九日間でこれまでにない金二一〇万円を超える取引をして、一方的に取引を停止し、その代金債務の弁済期直前になってこれまでに請求したこともないいわゆる切込小揚代を請求して相殺の意思表示をなし、その後間もなく事実上廃業して右一一月及び一二月の代金債務の支払をしないというのであり、後記認定のように右のいわゆる切込小揚代が原告に請求できないものであること、前述のように市毛商事の法人格が全くの形骸にすぎないことをも併せ考えると、被告が右代金債務の支払義務がないと主張することは、市毛商事の法人格を濫用して自己の責任を免れようとするものとして許されないというべきである。

そうすると、市毛商事の被用者の不法行為により損害を蒙り、また、市毛商事との取引により売買代金の回収が不能となった原告は、市毛商事の背後にあり、その法人格を濫用している被告個人に対しその責任を追求することができると解すべきである。従って、被告は原告に対し、前記売買代金四一一万一六三〇円及び騙取された砂利等の代金相当額の損害金二二万二三〇〇円、ならびにこれらに対する弁済期又は不法行為の後である昭和四七年二月一日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものというべきである。

四  次に、被告の相殺の抗弁について判断する。

《証拠省略》を総合すると、いわゆる切込小揚代とは、砂利、砂の採取現場(切込み口)から砂利、砂を取り出し、これを製品化する選別機械まで運搬する際の運賃のことを指すものであること、原告は通常自己所有の車を使用してその運搬をしていたが、砂利、砂の需要が多くなり、多数の買主が出入するようになって、原告の車だけでは、その運搬が賄いきれなくなったことから、市毛商事を含め、買主にその運搬を手伝ってもらっていたこと、買主としても、右の運搬を手伝うことによって、原告の車で運搬するまで待っているよりも砂利、砂の取引が円滑に行なわれ、より早く目的地まで砂利、砂を運搬することができるばかりでなく、原告の運搬を手伝うことによっていくらかでも砂利、砂の単価を安くしてもらえるという利益があること、原告が買主に右の運搬を手伝ってもらう場合、原告と市毛商事を始めとしてその買主の間に運賃などの点についてはもとより明確な運送契約といったものが締結されたことはないこと、他の買主が切込小揚代と称して原告に対し運賃を請求したことはこれまで一度もなかったこと、従って原告においては、買主が砂利、砂を選別機械のところから持って行ったのか、それとも右の運搬を手伝ってもらったのかについてチェックしたこともなかったこと、市毛商事も、昭和四三年二月の設立から原告との取引を停止した昭和四六年一二月九日までの間かつて一度も原告に対し切込小揚代を請求したことがなく、取引停止後、残存していた買掛金債務の支払を拒絶する目的をもって初めて、取引の全期間を通じて別紙のとおり金五八七万円もの切込小揚代金があるとして、その請求をするに至ったこと、その請求金額算定の根拠としては明確なものがなかったこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠は存しない。

右認定事実によれば、買主が原告の採取現場から選別機械まで原告に代って砂利、砂を運搬したとしても、原告、買主双方の利益のために運搬しているのであり、いわゆる切込小揚代についての取り決めも存在せず、買主がその代金を請求するという取引慣習も認められないというべきである。従って、その余の点を判断するまでもなく、いわゆる切込小揚代金債権が存することを前提とする被告の相殺の抗弁は理由がないといわざるを得ない。

五  以上の次第であるから、市毛商事の法人格否認を前提として、被告に対し、市毛商事の本件売買代金債務の支払及び従業員佐藤浩の不法行為につき使用者責任に基づきその損害の賠償を求める原告本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野田禮宏)

<以下省略>

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